原阿佐緒は男を惑わせる魔性の女だった!?

 人妻ということばだけでもエロティックなのに、「さすらいの人妻」といわれれば、官能的な女性を思い描かざるをえません。原阿佐緒は女流歌人の中でももっとも美人として有名な人で、美貌がゆえに男に弄(もてあそ)ばれたり、逆に弄んだりの奔放な性生活を送ります。最初に処女を奪われたのは美術学校の教授で、レイプでした。先生ですら惑わすほどの色気を持っていたのでしょう。それがきっかけとなって男性を渡り歩くことになり、いくつもの浮名を流しました。

処女を奪われ妊娠!? 田舎に帰るしかなくなりました

ビル

 阿佐緒は宮城県の大金持ちの家庭に生まれた超美人。田舎のお嬢様が東京に出てくれば、好色男子の餌食になるのは時間の問題。日本女子美術学校(女子美大)に入学するとすぐに教授の小原要逸に目をつけられます。小原には妻子がありましたが、阿佐緒はそのことを知りません。自分のことを娘のようにかわいがってくれる小原を心から尊敬していたのです。

ところがある日、小原は豹変します。それまでのやさしい教師の顔が、ただの好色な男の顔にかわったのです。まだ処女だった阿佐緒は拒絶しますが、小原に力づくで犯されてしまいました。それで終われば良かったのですが、悪いことに、阿佐緒は妊娠してしまいます。仕方なく学校をやめ、故郷に戻って長男・千秋を出産。その後、小原が阿佐緒のもとにやってきて「責任をとる」と祝言をあげますが、ふたりの関係は長続きしませんでした。レイプで始まった関係がうまく続くはずはないのです。

次々と男を渡り歩く人生に

 仙台で文芸雑誌に参加し始めた阿佐緒は、アララギ派の古泉千樫と出会い恋愛関係に陥ります。今度もまた、千樫は妻子持ち。ねらった訳でもないのに、不倫になってしまうのです。千樫とは別れた後も良好な関係をつづけ、その縁で阿佐緒はアララギに参加。そこで出会った庄司勇と結婚します。ただ、勇は根っからの芸術家。お金のことには関心がなく、稼ぐことができません。阿佐緒の実家を頼りにしようとするずるがしこい男だったのです。勇に愛想をつかした阿佐緒ですが、性的関係は持ち続け、ふたりの子どもをもうけました。

ふたりめの出産は異常妊娠だったため東北大の病院に入院しますが、そこで出会ったのが東北大理学部の天才教授石原純。入院中に口説かれて、肉体的に結ばれてしまいました。石原は「日本のアインシュタイン」とも呼ばれるほどの高名な学者でしたが、やはり妻子持ち。なぜか妻子持ちにモテモテの阿佐緒は、石原の前から逃げ出します。しかし、石原が妻子を捨てて阿佐緒を追い求めたため、ふたりは同棲を始めます。石原は「阿佐緒と結婚で着なければ死ぬ」といって、実際に自殺未遂を起こすほどに彼女にぞっこんでしたが、7年の生活ののちには別に愛人を作ってしまいました。

次から次へと「妻子持ち」との不倫をしてしまった阿佐緒ですが、彼女は決して「悪女」ではありませんでした。本人も気づかない魔性の魅力に男たちが引き寄せられてしまったのでしょう。苦しい恋愛ばかりを繰り返した後に、阿佐緒は恋をあきらめ、バーのママとして生きる道を選びます。フェロモンを発散するママとして長く楽しい生活を送りました。

阿佐緒は、「吾がために 死なむと言ひし 男らの みなながらへぬ おもしろきかな」と歌いました。「あなたのためなら死ねる、と宣言した愛人たちと長続きしなかったのは、なんとも愉快なことだな」と。実に前向きで爽快な女性だったのでしょう。