現代の"就活"を幾重にもぶった斬る! 浅井リョウ『何者』

 早稲田大学在学中から作家として活動を続けている浅井リョウさん。卒業後は企業に就職して、2015年まで兼業作家として小説を執筆していたという経歴の持ち主です。会社に勤めながら書き上げたという『何者』で、第148回直木賞を受賞しました。

現代の学生の"就職活動"をテーマにした本作は、社会という未知へ放り出されようとする学生が通る"シュウカツ"へ、幾重にも冷静な視点で切り込みます。今回は、そんな浅井リョウさんの『何者』をご紹介します。

『何者』ってどんな小説?

ビル

 主人公は、就職活動中の大学生です。バンドサークルに所属する友人と同居していた彼は、ある日、留学していた共通の女友達との再会を果たします。そして、彼女をきっかけとして、アパートの上の階に住んでいる、同じ大学の男女カップルとも知り合いになりました。ここに集まった5人は、奇しくも全員が就活生。そこで、これから始まる就職活動へ向けて、5人の協力関係が始まりました。

しかし、"協力"という名目のもと、それぞれが互いへ向けて抱いていた視線には、なにか"シュウカツ"で浮き彫りになるイヤなものが満ち溢れていて……。就職活動がなければこんな関係性は生じなかった、あるいは、出会って関わることすらなかった5人の物語が、巧みな心理描写とそれぞれのSNSに投稿された言葉たちによって、紡がれています。

SNSの投稿が物語のカギ?

 『何者』でまず注目しなければならないのが、主人公とその周辺の登場人物による、SNSへの投稿です。本作では、実際に大学生の間で人気の「Twitter」のようなSNSが登場し、それぞれの人物が思いの丈を綴っています。このSNSの描き方は、実際のユーザーの目線から見ても、"若者のリアルそのもの"といったところ。自分を飾って見せる、去勢をはって見せる……SNSへの投稿には、各々の人間が抱えるコンプレックスや不安、虚栄心が、にじみ出ています。「私もこんなことを言っているかも?!」「こういう人、見たことある!」という投稿が、あなたもきっと見つかるはず!

"就活"にまつわるものを幾重にも批判

 『何者』は就職活動を題材にした作品です。物語の中では、いわゆる"シュウカツ"が、何層にもわたって深く批判されています。それは、「就職活動はおかしい制度だ!」などという、一元的な視点でなされる表面的な批判とは、まったく異なるものです。

『何者』で批判されるシュウカツとは、ひとつの対象ではありません。現代の就職活動への批判という側面もありながら、また同時に、シュウカツをできない学生も批判しています。そうかと思えば、就職活動に翻弄される学生を批判し、合格して内定を取った学生を批判します。そして、就職活動で傷つかないように距離を取る学生を批判するのです。幾重にも交わる批判の目……。実際にシュウカツを経験した世代が読めば、きっと自分も批判から逃れられず、巧みな筆にグサッとやられてしまうでしょう。そんな現実を見たくない、しかし読まずにいられない、物語の展開をどんどん追ってしまうこと間違いなしです!

今回は、浅井リョウさんの『何者』をご紹介しました。就職活動中の学生さんには色んな意味であまりオススメしたくありませんが、それだけパワーがあるということでもあります。シュウカツを経験した世代には、ぜひ読んでいただきたい1冊です。