好きな作家を追いかけてみよう

 読書好きを自認する人であれば、必ず好きな作家が1人はいるはずです。好きな作家に出会うことができたら、その作家をとことん追いかけてみましょう。
さまざまな作家の作品を読めば、それだけ多くのものを得ることができます。しかし、1人の作家の作品を深く掘り下げることによってしか得られないものだってあります。

掘り下げなければ得ることのできない答え

ビル

 好きな作家の作品をすべて読破してみましょう。多作な作家になると作品数も多く大変かもしれません。時間をかけてでもすべての作品を読み解くことによって、作家のさまざまな面を知ることができます。
時期によって作風がガラリと変わってしまう作家もいれば、同じテーマを何度も焼直す作家もいます。また、一つの作品に何度も手を入れる作家もいますので、その変化を追ってみるのも良いでしょう。
他の作品と併せて読むことによって、その作品に潜む別のテーマを発見することができることもあります。 同じテーマで作品の焼き直しを何度も行うことで知られている花村萬月の場合、「イグナシオ」「月の光」「ゲルマニウムの夜」という三つの作品がリンクしています。登場人物も舞台も時代も異なっていますし、三部作として発表されているわけではありません。当初、「イグナシオ」や「月の光」はハードボイルド小説、あるいはバイオレンス小説として読まれることの多い作品でした。しかし、この2つの作品の後に発表された「ゲルマニウムの夜」によって、前出の2作品の持つもう一つの大きなテーマが浮彫になります。
もちろん、それぞれの作品単体であってもしっかりと読み解くことができれば、そのテーマにたどり着くことができます。実際に一部の文芸評論家はこのテーマにたどり着いていました。しかし、巧みなストーリー展開や多くのサブテーマ、モチーフにカモフラージュされており、簡単にはこのテーマを発見することのできない構造となっていました。 これが作者の意図であるとすれば、やはりこの3作品をすべて読んだ上で、本当のテーマに気付くことが正しい読み方であると言えるでしょう。

作品単体で完結することのできない作品は駄作であるとする評論家も少なくありません。しかし、文学とはそんなにシンプルなものではないと筆者は考えています。確かに芥川龍之介や夏目漱石は見事に単体でしっかりと作品を完結させていました。 しかし、単体ではテーマを表現し切れずに何度も同じテーマの焼き直しを繰り返した太宰治や菊池寛、井伏鱒二らの作品の多くが駄作であるとは言えないはずです。 文学の世界には明確なルールも正解も存在しません。リンクした作品の一つだけを読んで答えを出すのか、すべてを読んで答えを出すのかは読者の自由です。 しかし、1人の作家の作品を多く読み、掘り下げることによってしか気付くことのできない答えがあることを知っておきましょう。