猫ブームの今こそ読みたい猫の小説『トマシーナ』

 昨今、日本は空前の"猫ブーム"で盛り上がっています。インターネットには、いつも猫の写真や動画が投稿され、多くの人が猫たちの奔放な姿に癒されていますね。また、店内で猫と触れ合える「猫カフェ」は、住居の事情などからペットを飼えない人たちでも、気軽に猫に会える空間として、大人気です。

しかし、その一方で、TVで人気のタレント犬がずさんな飼育により命を落とすなど、ペット産業の闇が露呈するニュースもありました。今、これからも人間が動物と一緒に暮らしてゆくために、哲学が問われているのです。そんな中で、今回はポール・ギャリコが描いた猫の物語『トマシーナ』をご紹介します。

『トマシーナ』ってどんな小説?

ビル

 獣医のマクデューイ氏は、動物病院に駆け込んでくる、もう手の施しようがないペットたちを、容赦なく安楽死させる冷徹なドクターです。本人は「助かる見込みがないから楽にしてやろう」という魂胆なのですが、娘のメアリ・ルーは、それに納得しません。ある日、メアリ・ルーは、トマシーナという猫を連れ帰ってきます。トマシーナを飼うのにあまり賛同できないマクデューイ氏。しかし、スマートで賢い猫のトマシーナは、彼の意に反して家庭に入ってしまうのでした。

そんなトマシーナに、あるとき命の危険が迫ります。メアリ・ルーは獣医である父に「トマシーナを助けて!」と駆け寄るのですが、マクデューイ氏は、またもや"もう手の施しようがない"と判断。トマシーナを安楽死させようと、いつものように薬を使いました。この事件をきっかけに、メアリ・ルーは父親に失望し、態度を変えてしまいます。愛する娘にそっぽを向かれた父は、どうなってしまうのでしょうか。そして、猫のトマシーナは……? エキサイティングで誰もが楽しめる展開と、ペットを飼う人なら必ず考えておきたい命の問題が詰まった小説です。

ペットの命について考えを馳せてみる

 獣医さんが主人公の小説といえば、動物の気持ちに寄り添ってくれるような、頼りがいのあるドクターを思い浮かべますよね。しかし、『トマシーナ』に出てくるのは、冷たくて、「動物の気持ちなぞ、知らん!」とでも言わんばかりの男です。動物が好きな方なら、思わず、読んでいるだけで憤ってしまうかもしれません。しかし、この小説がペットの命について考えるチャンスをくれるのは、逆に、マクデューイ氏がこういう獣医だったからこそ。彼が、トマシーナの死とその後の物語を通して、一体どのように変わっていくのか――気になる方は、ぜひこの本をお手に取ってみてください。

動物が活躍する小説を通して、ペットブームの裏にあるものを読み解きましょう。現在、日本のペットショップに犬や猫たちが来るまでに、どういう過酷な過程があるのか。また、無責任な飼い主たちがブームに乗じて命を預かった結果、どういう過酷な結末があるのか。ブームは一時期ですが、命は一生続くのです。飼い主になる前に、ペットショップに行く前に、たくさんの情報を集めるとともに、こういった小説を読んでみると視野が広がるかもしれません。

今回は、ポール・ギャリコの『トマシーナ』をご紹介しました。猫を好きな方、ペットを飼っている方、どなたでも楽しく読めて考えられるオススメの作品です。